
「馬場さんよ、俺は明日お前さんを怒鳴るからな。
部下の前で思い切り喧嘩しようぜ」・・・
上司である石原のおっさんとは毎晩飲んだ。
そして営業の数字が上がるように計画を立てた。
翌朝、「馬場!どうなってるんだ!今月このままの数字で
終わるのかよ、みっともねぇ。部下たちは何をしているんだ」
約束通りにボクは怒鳴られた
「うるせぇな、わかってんだよ。
ちゃんとコイツら仕事してるんだから、黙ってみてろ!」
「わかったよ、馬場さん。本当に(目標数字)行くんだな」
「決まってんじゃネぇか、当たり前だよ」
なんて調子で芝居を打つ。
するとボクと石原のおっさんとの仲をよく解っている
部下はクスクスと下を向いて笑っている。
そんな日々が、ボクの楽しかったサラリーマン時代の
想い出である。
あれから16年、その会社はもう既にない。
その石原のおっさんから少し以前に、電話が来た。
「馬場さんよ、おれ癌かも知れないんだ・・・」
「おー、それは良かったじゃないか、日本が平和になるよ」
「いや本当なんだ・・・死ぬかもしれないんだ」
「だったら、死んでから幽霊になって報告においで」
数日後
「癌じゃなかったよ・・・よかった」
「この死にぞこないめ!同情を買うつもりなら
ちがう手を使えよ」
そう言うと
「あんただけだよ、そう言ってくれるのは・・・
ありがとう」
石原のおっさんが電話の向こうで
泣いているのがわかった。
ボクもほっと胸を撫で下ろした。
幽霊になって報告されても困る
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っq
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